概要
summary
中国の改革開放三十周年を記念する叢書の一冊として出版された原著は、中国社会学研究の拠点として位置付けられる上海大学社会学部の高名な教授陣が総力を結集し、半年以上の時間をかけて完成した力作である。改革開放後の中国が経験してきた社会生活の巨大な地殻変動を、執筆者は時系列的に克明に追跡し、欧米の社会学理論に目配りしつつも、中国の現実に基づく解明を試みた。中国社会の構造的変遷、発展の経験、政治・経済・社会の間の独特な関係を理解する上で有益な視点を提供する好著である。
目次
contents
序論 制度と生活から見る中国社会の変遷
- 第一節 制度と生活の関係についての論証
- 研究視点の設定
- 生活を規制するための制度構築
- 制度は生活を完全に支配できない
- 制度と生活の有益な相互作用の構築
- 第二節 自主性の社会理論の分析
- 自主性の多元的論考
- 自主性の条件
- 自主性のパラドックス
- 第三節 自主性の回帰とその制限
- 自主性の強調
- 自主性のジレンマ
- ジレンマの超越:和諧社会理念の提示
- 第四節 本書内容の構成
第一章 社会の単位化:国家による生活方式の取決め
- 第一節 新制度、新社会、新アイデンティティ
- 革命後の社会再建の青写真
- 制度の定型化と新秩序の形成
- 全体主義社会の構造とアイデンティティ
- 第二節 規制された社会生活
- 再分配ロジックにおける生計:社会主義の福利体系
- 平等と不平等:経済―政治―社会的地位それぞれの現れ
- 「運動」が生活の一部に
- 同質化:個性の衰退
- 禁欲主義的消費と生活
- 第三節 隠匿された自主的空間
- 「単位人」の行動戦略:非正式ネットワークが潜在的に運営
- ハニカム構造:単位間の行動空間
- 身分を変える:密やかな階層流動
- まとめ
第二章 「確定性」の緩和:改革試行
- 第一節 「単位社会」の突破口を開く
- 破壊後の再建
- 「放す」と「譲る」:体制「緩和」の幕開け
- 自由な流動資源の流出
- 改革の共通認識の形成
- 第二節 階級関係の微調整
- 流動パターンの転換
- 知識価値の転換点:知識分子の地位の上昇
- 職業と財産基準の上昇:新社会集団の芽生え
- 第三節 政治の暗い影から脱した家庭生活
- 家庭経済の多様化:農村の家族関係の変革
- 政治の雲煙からの脱出:都市の家族関係の変革
- 第四節 自由と個性の復活
- 「読書はタブーなし」:新啓蒙運動
- 理想と現実の間:反省意識の顕在化
- 模倣から生まれた個性:政治を離れた流行の生活
- まとめ
第三章 再分配体制の弱体化:自主性の芽生え
- 第一節 制度の急激な変化
- 配給券時代の終了:不足経済との別れ
- 戸籍制と単位制の弱体化
- 労働契約制:「鉄の茶碗」の打破
- 地域社会の復活:社会生活の自己手配
- 第二節 新階層の生長
- 頭脳労働者の収入が肉体労働者の収入を下回る:インテリの落ち込み
- 新富裕層の出現:創業ブーム
- 新産業労働者階層の形成:二重身分の農民工
- ホワイトカラー:価値を表し、生活を味わう
- 第三節 消費時代の到来
- 消費水準の向上:量から質への転換
- 娯楽性消費:プライベート化と産業化
- 贅沢消費:流行と社会の礼儀
- 第四節 家庭婚姻の新傾向
- 自己空間の出現
- 「踏み台」としての国際結婚
- 婚姻のぐらつき:浮気を大目に見る
- 第五節 自己意識と文化の失語
- 「人の研究」:人間性の訴え
- 自己価値の実現:第四世代
- 文化の失語:大衆文化と人文精神
- まとめ
第四章 開放と流動:市場体制下の社会生活
- 第一節 市場のパワーのさらなる放出
- 「経済過熱」の抑制
- 「内需不足」に直面
- グローバル貿易体制への参入
- 社会生活の「市場化」
- 第二節 階層分化:社会構造の新たな特徴
- 社会の再構築
- 新階層意識の出現
- ホワイトカラー集団:スタビライザー、それとも?
- バランスを失った利益構造
- 第三節 自主性のさらなる芽生え―権利意識と社会参加
- 成長し続ける社会の「新細胞」―民間組織
- 権利意識の覚醒と公民運動の始まり
- 第四節 消費主義時代の形成
- 欠乏との決別:家庭収支構造の大きな変化
- 先行消費:信用制度が生活を変える
- セグメンテーションと分化:消費が分層を形成
- 第五節 インターネット時代の生存方式:仮想の中の真実
- インターネット時代のコミュニケーションと生活
- ネットが民意を表す
- 第六節 福祉制度改革とその回顧:市場開放から社会保護への転換
- 社会福祉制度の市場化改革及びその社会的結果
- 第16回党大会以降の社会福祉制度の再調整
- 第七節 アイデンティティの喪失と再構築の努力
- 社会的アイデンティティの基礎領域の構造変遷
- アイデンティティを再構築する革新の道
- まとめ
第五章 調和:社会建設の新たな一章
- 第一節 調和のとれた社会と新たな改革共通認識
- 改革共通認識が転換する内在論理
- 調和のとれた社会:改革に対する新たな共通認識
- 改革に対する共通認識の刷新:価値観の再構築
- 第二節 調和のとれた社会を構築する制度の取決め
- 社会安全ネットワークの構築:調和のとれた社会の制度的基礎
- 社会の利益構造調整:社会建設における関係調和
- ソーシャル・ガバナンス構造の初出:調和のとれた社会の内在的プロセス
- 第三節 調和のとれた多様化生活のはじまり
- 現実と仮想の間:多様化する生活の社会的基礎
- 細分化の中での選択:自主的生活
- 調和のとれた新生活を構築:価値観の統合及び秩序の再構築
- まとめ
余論 グローバル化を背景とした民族国家自主性の再構築
-
- グローバル化が提起する新たな問題
- 複雑な社会における民族国家
- 民族国家:グローバル化のコンテクストにおける積極的な行動者
- あとがき
著者紹介
introduction
訳者紹介
introduction
毛文偉(もう ぶんい)
上海外国語大学大学院日本言語学専攻博士課程修了。博士(文学)。上海外国語大学教授。専門は言語学、コーパス研究、第二言語習得研究。
戴智軻(たい ちか)
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。博士(社会情報学)。京都外国語大学教授。専門は社会情報学、ツーリズム、地域研究(中国語圏)。
※発行時の奥付より
助成出版
grant
上海市哲学社会科学基金 上海市中華優秀学術図書多言語翻訳プロジェクト
装丁
binding