概要
summary
「劇場」が建築であり空間であるとする考えが一般的な中で、本書ではそれを総合芸術のひとつとして様々な創造作品の前提環境となる「劇場」と定義し、舞台芸術の歴史について考察。現代において、「劇場」が「ハコモノ」と揶揄されることに強い違和感を覚えていた。日本の公立文化施設が本書で定義した「劇場」である必要があると語るとき、それは運営上必要なソフトウェアがハードウェアとセットで議論され計画され、実施されることを意味しなければならない。このような問題意識を踏まえ、副題を〝劇場芸術の境界線から読み解く〟とした。演劇や舞踊、劇場研究の先達たちから作品創造に対する知恵に感銘を受けてきたことはもとより、劇場の現場で活躍する演劇人や舞踊家、劇場人との対話により理解を深めたことなどを講義内で学生に伝えた内容や、また自作のクリエイションについてもまとめている。「劇場」が研究領域において見過ごされてきた境界を結ぶ重要な場となることを考察した一冊。
目次
contents
序章
- 一.研究の背景・目的・方法
- 二.用語の定義
- 三.既往の研究
第一章 舞台芸術研究の理論と実践の方法論
- 第一節 本章の目的
- 第二節 実践の方法論
- 第三節 現代の劇場誕生の背景
- 第四節 まとめ
第二章 帝国劇場の「前舞台領域」から捉えた舞台芸術
- 第一節 帝国劇場の位置づけ
- 1–1.研究の背景・目的
- 1–2.既往の研究
- 第二節 「前舞台領域」の近代化 舞台の領域と客席の領域の融合
- 2–1.帝国劇場(横河民輔設計)の意義と貴賓席について
- 2–2.劇場空間における「見える風景」の変化
- 第三節 まとめ
第三章 劇場改革―新たな風景の発見
- 第一節 考察の前提
- 1–1.「演劇」と「劇場」との融合
- 1–2.オペラ劇場の近代―劇場空間の「視覚条件」
- 1–3.劇場機構と巨大化
- 第二節 近代的「プロセニアムアーチ(額縁)」の誕生
- 2–1.フランス・パリ「ガルニエ宮歌劇場」
- 2–2.ドイツ・バイロイト「バイロイト祝祭劇場」
- 第三節 「光の演出」による新しい風景
- 第四節 アドルフ・アッピアの演出理念と劇場観
- 4–1.近代における舞台と客席
- 4–2.既往の研究
- 4–3.分析対象・方法
- 4–4.アッピアとその歴史的位置づけ
- 4–5.アッピアの言説の検討
- 4–5–1.『プリンツレゲンテン劇場の観客席』(一九〇一年)の検討
- 4–5–2.『ユーリズミックスと劇場』(一九一一年)の検討
- 4–5–3.ダルクローズとの出会いによる劇場観の変化
- 4–5–4.ダルクローズ研究所におけるアッピアの理念の実現
- 4–5–5.アッピアの論文「Monumentality(記念碑性)」
- 第五節 新しい舞台芸術―劇場界との接点
- 第六節 「劇場」を視点とした演劇研究
第四章 劇場芸術の境界線―自作の舞台作品を事例として
- 第一節 考察の前提
- 1–1.研究の背景・目的
- 1–2.研究対象・方法・用語の定義
- 第二節 地域の文化財を新視点でクリエイション
- 2–1.新作初演までの制作経緯①
- 2–2.新作初演までの制作経緯②
- 第三節 劇場芸術の境界線を大学劇場で考える
- 第四節 まとめ
第五章 創る観客論に立脚した現代の劇場モデル
- 第一節 舞台芸術の専門性
- 1–1.専門の領域
- 1–2.市民の領域
- 第二節 「多目的ホール」論考
- 第三節 舞台芸術と観客
終章 「劇場」の拠点性が紡ぐ劇場文化
資料
- 一.はじめに
- 二.着想から公演までの記録
- 2–1.公演(特別公開講座)の概要
- 2–2.公演までのスケジュール
- 三.制作内容と記録
- 3–1.制作アシスタント・学生の活動内容
- 3–2.制作の記録
- アンケート結果
参考文献
あとがき
著者紹介
introduction
装丁
binding