概要
summary
今日まで貧困の悪連鎖に陥ったアジアをどうみるべきか、経済発展視点から、とりわけヒト・物の移動により地域・産業・社会へと大きく影響している点に注目してアジア社会はこれまでにどのように貧困脱却に挑戦したのか、その過程を理論的に解説する試みが本書の目的である。世界経済と同様にアジア経済全体も低成長時代に入り如何に「雇用なき成長」を超えて貧困を終結させるか。産業構造の転換や労働市場の市場化など課題を解決しながらのソーシャル・セーフテイネットの整備は何より重要な一歩である。しかし残念ながらグローバル化の代表的な雇用機会流動化の流れに乗り遅れたアジアが如何にこのような諸問題を克服し近代化を目指すべきかを分析したことは本書のもう一つの試みである。
目次
contents
- はしがき
第1章 アジアの貧困克服と雇用構造の脆弱性
- はじめに
- 1. 成長するアジアにおける「貧困化」現象
- 2. 労働市場の硬直性と「雇用なき成長」
- 3. 伝統的二重経済理論への挑戦
第2章 アジアにおけるソーシャル・セーフティネットの脆弱性
- はじめに
- 1. SSNの原則とその特徴
- 2. SSNの現状とその問題点
- 3. SSNの構築と人間の安全保障
第3章 積極的労働市場政策ALMPs
- はじめに
- 1. ALMPsとは
- 2. マクロ経済成長とインフレ抑制
- 3. 過剰供給状態下のアジア労働市場の欠点
第4章 経済成長とソーシャル・セーフティネットの形成
- はじめに
- 1. 過剰人口と雇用不足
- 2. SSNとALMPsの相関関係
- 3. 経済成長による労働市場形成の促進
第5章 格差の世界的拡大とそのメカニズム
- はじめに
- 1. 雇用格差を背景にした所得格差の世界的拡大
- 2. 所得分配の不平等によると貧困問題の悪化
- 3. 工業化の雇用効果とケインズ経済学の限界性
第6章 経済体制転換の雇用効果
- はじめに
- 1. 植民地・小農経済からの脱却
- 2. 開発主義から資本主義経済への転換
- 3. 経済体制転換による雇用喪失
第7章 経済のグローバル化と所得格差の拡大
- はじめに
- 1. 市場経済下の技術格差
- 2. 生産要素とその特性
- 3. 外部経済性と賃金変動のメカニズム
第8章 雇用機会の不平等と所得格差の拡大
- はじめに
- 1. 経済発展による雇用促進
- 2. 雇用機会とその配分
- 3. アジア的工業化と所得分配
第9章 人口移動と人口構造の転換
- はじめに
- 1. 人口爆発と雇用不足
- 2. 過剰労働力の移動
- 3. 工業化と人口転換
第10章 「失業なき労働力移動」と貧困削減
- はじめに
- 1. アジア型「雇用なき成長」の特徴
- 2. アジアを豊かにするための雇用創出
- 3. 人口の過剰供給と雇用調整
第11章 労働市場の変動と人的資源開発
- はじめに
- 1. 労働市場とは
- 2. 労働市場の整備とSSNの構築
- 3. 経済発展と労働市場の市場化
第12章 工業余剰の転換と貧困悪循環の克服
- はじめに
- 1. 働く貧困層と低雇用
- 2. 生産と貧困の負の連鎖
- 3. 工業余剰の転換と農業生産性の上昇
第13章 経済構造の転換と貧困緩和の促進
- はじめに
- 1. 経済構造の転換による「経済学的罠」の克服
- 2. 非正規雇用と規制の経済学
- 3. 農工間労働力資源の配置転換による貧困緩和の効果
第14章 経済のグローバル化と貧困緩和のメカニズム
- はじめに
- 1. 平等と所得格差
- 2. 生産工程のグローバル化と雇用喪失
- 3. 所得格差の拡大を防止する社会的変革
第15章 アジア社会の構造変動とその展望
- はじめに
- 1. 経済グローバル化と地域間労働力移動
- 2. 過剰労働から労働不足へ
- 3. アジアの近代化社会への再挑戦
- 主要参考文献
著者紹介
introduction
装丁
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